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視覚とミュージアム

視覚情報を中心としたミュージアム。

見ることを、見えることを前提に、あらゆる資料が収集、展示されています。

では、見えない人は、どのようにミュージアムを利用すればよいのでしょうか。

Photo by Nathan Anderson on Unsplash

資料を”みる”

近年多くの博物館が、オンラインで資料を公開するようになりました。

わざわざ遠くまで足を運ばなくても、パソコンやスマホを使って、日本だけでなく世界中の豊富な資料を閲覧することができます。

 それでも、博物館に足運び、資料を見に行く理由はどこにあるのでしょう。

 博物館には、ひとつだけでなく、複数の資料が関係性を持って展示されています。

ある資料に、どのような意味が含まれているのか、他の展示資料との対比や系列を確認することで、理解が深まることがあります。

 また、ウェブサイトに掲載していない解説、学芸員の解説、パソコンの画面ではわからない、質感、音、重量を感じ、実際に触れることができる資料もあります。

 ミュージアムには「視覚情報」以外の情報も溢れています。


ミュージアムの資料を”みる”ということは、 目で見るだけではないのです。

Photo by Darius Bashar on Unsplash

「みる」

「みる」という行為は、光や形を捉えるだけでなく、それらを記憶に結びつけたり、意味付けしたりと、実に複雑な機能の組み合わせで成り立っています。

 そのため、光や形の感じ方、視力、見える範囲、色の感じ方は、人によって違いがあります。

そして、近年の脳科学の研究では、「みる・みえる」ということが、視神経だけでなく、脳機能とも深く関わっていることがわかってきています。

Photo by Olga Drach on Unsplash

星  空

一般社団法人 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ 代表理事の志村季世恵さんから、素敵なエピソードを教えて頂きました。

 ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドスタッフであるTさんは、目が見えません。そのTさんが旅先で体験した、星空のお話しです。

その町は、お店がたった1軒しかなく、高い建物もないフランスの田舎町。

でも、そのおかげで、夜になると満天の星空に包まれます。

地平線が見える場所だったのかもしれません。

その夜、Tさんと友人たちは、星を見に行くことにしました。

そこに着くと、目の見える友人が、空を仰ぎ歓声をあげます。

Tさんも同じように空を仰ぎ、星空を感じます。

友人の一人は「わぁ!なんてすごい星の数。空の高いところだけじゃなく下の方にもたくさんの星がある!」

そして、別の友人は「満天の星で息ができない」、と声をつまらせます。

Tさんは、友人たちのその感情に共鳴したのでしょう。

同じように、息ができないほど星を感じたといいます。

彼女は、一緒に星空を眺め、そして感動し、私たちにも美しい星空の話を聞かせてくれるのです。

2021年12月 東京・竹芝

 ダイアローグ・ミュージアム 「対話の森」 にて

Photo by Greg Rakozy on Unsplash

目の見えない白鳥さん

白鳥さんの趣味は、絵を鑑賞すること。そして見せること。

視覚に障害のある白鳥さんは、光によって絵を見ることはできません。

しかし、誰かと一緒に作品を鑑賞することで、その作品を「見る」ことができます。

そして、周りの人は、白鳥さんによって「作品を見せられる」ということが起きます。

白鳥さんは、一緒に鑑賞する人に「見えるものと、感じたことを教えて下さい」とお願いします。

 白鳥さんに伝えるために、しっかりと作品を観察すると、ただ漠然と見ていただけでは気が付かなかった細部のモチーフや、色使い、筆使いなどが見えてきます。

そして、その作品に、いろんなストーリーや感情が生き生きと芽生え始めます。

白鳥さんに伝えるために、作品を観察し、ことばにした結果です。


 目で見るということは、光だけで見ているのではなく、脳内の作用と深く関わっているということがわかります。

川内有緒/著

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

 集英社インターナショナル 2021年

Photo by Kazuo ota on Unsplash

点 字

厚生労働省の調査によれば、視覚障害者の点字識字率は12.7%となっています。

点字を習得するには、とても高い技術と訓練が必要です。特に、大人になってから病気やケガなどで、視力を失った方が、点字を習得するのは難易度が高いと言われています。

0%

視覚障害者の点字識字率

(厚生労働省 平成18年身体障害児・者実態調査結果 p.24 表-18より)

誰のためのミュージアムか

2018年、MoMAは4億5千万ドルを投じた大規模改修のために一時休館しました。

この機会に行われたのは、改修だけでなく、スタッフのトレーニングとアクセシビリティに関する研究でした。

多様な障害のある約10名のアドバイザーを招き、どこに障壁があるか指摘してもらいました。

そして、その指摘を元に、改善の研究とスタッフのトレーニングが実施されました。

MoMAのコミュニティ、アクセス、学校プログラムのディレクターであるフランチェスカ・ローゼンバーグは、大がかりな調査とトレーニングを実施した理由について「背景にある目標は、私たちが最も居心地の良い美術館になることです。障害のある人々は私たちの一般市民の一部だからです」と述べています。


2019年、ロンドン・ウェルカム・コレクション展で、台座を黒く着色したオブジェが展示されました。

「これは、美しいだけでなく、床との視覚的なコントラストが非常にはっきりするためです。

私たちは人々がお互いに興味深く、深い会話をすることを望んでいます。

空間で有意義な展示を考える場合、空間のデザイン自体が、あらゆる人にとって課題にならないことが、非常に重要です」

キュレーター クレア・バーロウ


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