Q1.貴館が扱う主な資料をご教示ください。
2019年に日本博物館協会が実施した「日本の博物館総合調査」では全国の約4,200館を対象に、2,300余りの回答が集計されました。回答館の割合は、歴史・郷土博物館が62.5%、美術が23.8%でした。本アンケートでは、歴史・郷土博物館が26.3%、美術が70%と、日博協調査とは逆の比率となっており、日博協調査よりも、美術館の影響が大きい集計となっています。
Q2.貴館の設置者をご教示ください。
Q3.ご回答頂いている方のお立場についてご教示ください。
(兼務の場合は複数チェックをお願い致します)
Q4.コロナ禍以前の平均的な年間来館者数をご教示ください。
日博協調査では、来館者数の中央値は、約1万4千人でしたが、本調査では、1万〜5万人/年が最多となっており、日博協調査よりも、博物館の規模が大きい傾向となっております。
Q5.貴館は、ボランティア組織や友の会を設置していますか。
都道府県立、市区町村立の公立館では、70%近い割合で、ボランティアが組織されています。財団・企業・大学では、半数以上がボランティア、友の会を設置していない結果でした。
公立館では、友の会よりもボランティア組織の設置が多くなっておりますが、財団、企業系では友の会の方が多く設置されていました。
5−1.全体
5−3.設置者別
Q6.貴館の業務量に対する、職員・スタッフの人数バランスについてご教示ください。
「常に不足している(濃いオレンジ色)」が目立つ結果となりました。特に資料の電子化は70%の館が、資料以外のITに関する業務でも55%の館が常に不足している状況でした。
また、保存・修復、調査・研究という博物館の根幹に関わる業務でも半数近い館が常に不足していると回答しており、深刻な状況にあると推察されます。
設置者別でも、ほぼ同様の割合であり、設置者による大きな違いは見られませんでした。
Q7.貴館の運営上、課題になっていることがありましたらご教示ください。
運営上の課題等についてお伺いしました。この設問においても、日常的な問題となっている(濃いオレンジ色)が目立つ結果となりました。予算、資料の保存・修復、建物の老朽化などで、高い割合となりました。
指定管理者制度に関しては、60%超の館が問題ないと回答しており、メディア等で言われるほど大きな問題にはなっていないのではないかと感じました。
(未回答項があったため、横計には差異があります)
2021年12月に文化審議会答申についてお伺いしました。
①②③は、文化遺産の保存、継承、社会教育など、博物館活動の拡充を促しており、比較的「既に対応している」、「部分的であれば対応可能」が多い回答となりました。ただし、②につきましては、「デジタル化」が含まれており、Q6の集計と連動し「既に対応している」が半減、「現状では対応困難」が大幅に増加しています。
④は、「福祉」、「社会的包摂」、「国際交流」、「観光」がキーワードとなっております。このうち「社会的包摂」は§5に連動しています。「観光」と博物館活動と結びつけることには、数々の問題も指摘されており、本アンケートでは触れませんでしたが、今後活発な議論が展開されることと思われます。
⑤は最も「現状では対応困難」が多い結果となりました。専門的人材の育成を促していますが、現場では多くの職員が非正規雇用であること、育成のための予算不足など、Q6の回答が背景にあるものと推察できます。
Q8.文化審議会が示した『博物館の使命と今後必要とされる機能』に対し、現状の人材、設備等で対応可能かご教示ください。
審議会では、下記の項目について方向性を示したもので、義務化や法整備を求めてはおりません。
審議会の報告書は下記のリンクからご覧いただくことができます。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/pdf/93606001_06.pdf
①資料の保護と文化の保存・継承(「守り、受け継ぐ」):
博物館は、自然と人類に関する有形・無形の遺産を、関連する事項を含めて地域や社会から資料として収集し、損失のリスクから確実に守るとともに、調査研究によって資料の価値を高め、未来へと継承する。
②資料の展示、情報の発信と文化の共有(「わかち合う」):
博物館は、資料を系統的に展示し、デジタル化し、来場者のみならず広く情報を発信することにより、共感と共通理解を醸成するなど人びとと文化を共有する。
③地域の福祉(健康・幸福、生活の質)の向上への貢献:
博物館は、生涯学習・社会教育の拠点として、多世代の人びとへの学びの機会を提供し、現在と未来に生きる世代を育む。
④社会的包摂・相互理解・多文化共生への寄与:
博物館は、幅広い文化芸術活動をはじめ、まちづくりや福祉、国際交流、観光、産業、環境などの関連団体、関係者とつながりながら、社会や地域における様々な課題に向き合い、解決に取り組むことにより、持続可能な地球環境の維持、創造的で活力ある地域社会づくり、人びとの健康で心豊かな生活に貢献する。
⑤専門的人材の確保、持続可能な活動と経営の改善向上(「営む」):
博物館は、博物館を取り巻く幅広い業務に従事する様々な専門的人材を確保するとともに、物的、財源的な基盤を確保し、安定した経営を行うことによって持続して公益の増進を図る。また、使命の達成をめざし、評価・検証することにより、その活動と経営を改善し、価値を最大化させる。
Q9.コロナ禍以前の平均的な年間教育普及活動の回数についてご教示ください。
月に1回以上、実施されている館が最多でした。教育普及活動は、回数だけの問題ではありませんが、設置者別、来館者規模別にみますと、来館者規模が小さな館、財団・企業系博物館の回数がやや少ない傾向でした。
Q9-2.設置者別(回答数)
Q9-3.来館者規模別(回答数)
Q10.貴館で実施されている教育普及活動の種類についてご教示ください。(複数回答)
ギャラリートークやワークショップ以外にも、音楽や映画の鑑賞会や句会など、多彩な活動をされていることがわかりました。教育普及活動実施の課題やご苦労について次項でお伺い致しました。
Q11.教育普及活動を行うに際し、課題がありましたらご教示ください。
予算、時間、人員で「常に不足している(濃いオレンジ色)」が多い結果となりました。参加者の数や満足度は高い水準にあり、実施すれば高い満足度と効果が得られていることがわかりました。学校連携の調整や運営でもやや濃いオレンジ色が多い傾向になりました。学年や人数による内容の検討、移動方法、休憩やレクチャーの場所の確保、教員との打ち合わせなど、通常の教育普及活動よりも、多くの手間と時間が必要であることがうかがえる結果と考えます。
Q12.貴館の設備や取り組みをご教示ください。(複数回答)
1994年に「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(通称:ハートビル法)が施行され、車いすで利用できるトイレやスロープの設置等が博物館に義務付けられました(現在は2006年に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化促進に関する法律」に一本化)ので、本設問では、これら以外についてお伺いしました。
車いす貸し出しはほぼ全館、ベビーカー貸し出しや授乳室も高い割合でした。一方で視覚障害、聴覚障害のある方への対応は、次項の設問と関連しますが、改善の余地があるかもしれません。筆談ボードは安価に設置できますので、設置が進むことを期待致します。
点字案内板は高価な割に利用率が低い設備と言われています。点字の修得には高度な訓練が必要であり、厚労省の調査によれば識字率は約12%となっています。また容易に利用できるよう、設置場所にも工夫が必要であり、ハード面よりもソフトの面での対策が効果的かもしれません。
Q13.障がいのある方への対応が必要になった場合、どのように情報を集めますか。
(複数回答)
博物館職員の皆さまがどのように、情報を得ていらっしゃるかお伺い致しました。ウェブサイトが圧倒的に多く、次に専門家、書籍の順でした。
本設問では「本人・介助者に尋ねる」という回答が4.9%(4件)ありました。障がいの程度、必要とする支援、合理的配慮は千差万別であり、非常に重要な示唆を頂くことができました。
Q14.障がいのある方が来館された際の職員、スタッフの対応についてお尋ねします。
「対応が難しい」と回答された割合は、視覚に障がいのある方への対応が最も多く、発達障がい、精神・知的障がいへの対応よりも多い結果となりました。博物館の展示は視覚情報を中心として構成されていますが、病気やけがなどで、視覚に障害を持たれるようになった方の中には、博物館、美術館に関心をお持ちの方も多数いらっしゃいますので、白杖をお持ちの方が来館されましたら、ぜひお声がけしてみて下さい。
Q15.アクセシビリティ改善のために導入済、あるいは導入を検討しているICT関連機器はありますか。(複数回答)
遠隔会議システム、所蔵品データベースは半数近くの館が導入または、導入を検討中でした。
iPhoneやiPadには、操作や画面を音声で読み上げるボイスオーバーという機能が標準で備わっており、視覚に障害のある方もよく利用されています。
UDトークは無料で利用できる音声翻訳ソフトです。コツが必要ですがZOOMで利用することも可能です。
音声読上げQRコード、利用者の端末を利用した展示解説アプリは、興味深い取組みだと思いました。安価に開発できる方法を模索したいと思います。
Q16.障がいのある方とのコミュニケーションに関する講習や研修があったら、参加したいと思いますか。
約70%が「参加したい」、25%は「既に参加している」、「参加したいとは思わない」は2件でした。
Q17.これまでよりも、さらに市民に愛される博物館になるために、どのような取組みが有効だと思われますか。(複数回答)
「教育普及事業の充実」と「学校連携を増やす」など重複した選択肢を設定してしまい、大変失礼致しました。
統計的な意味はありませんが、企画や資料、展示方法に関する回答の合計が129件、学校連携や地域のNPOや団体とのイベントなど教育普及に関する回答が207件でした。資料や展示に加え、施設や地域の特色を活かした教育普及活動の充実も重要とお考えであることがわかりました。
一方、「建物の改修」、「職員・スタッフの増員」も約半数の館で選択されています。建物の老朽化や職員の不足が、外観や労務上の問題だけでなく、市民が博物館から遠ざかってしまう要因にもなり得るという、非常に重要なご指摘であると考えます。
Q19.下記の事業や団体、活動のうち、関心をお持ちのものがありましたら、ご教示ください。(複数回答)
Q20.経営や活動などの面で参考にしている博物館や文化施設、あるいは注目している活動等ありましたら(よろしければその理由も)ご教示ください。
<ご回答一覧>
④「ポリフォニックミュージアム」(事務局:福島県立博物館)
⇒⇒社会的課題に向き合うために、ミュージアムを一つの拠点とする、という試み(事業概要PDF)
<ご参考>
・ラウンドテーブル 「開く、ミュージアム」2022年1月23日開催
⑤なかなか他館の事例が参考にならないので、回答が難しいのですが、むしろ博物館よりNPO等他分野の活動を応用して活用できないかと考えている。
⇒⇒実施実績があるが金銭面のみならず活動PRとしての効用も期待できるため
⑨ ソーシャル・ガイド
⇒⇒未入館者への強い働きかけとなる可能性がある。
<ご参考>
(歴史学、自然科学、民俗学など他ジャンルの施設についても)、東京文化財研究所の活動やその提供する情報、美術史学会、文化財保存修復学会など関連学会の動向、芸術系学科を開設する各地の大学の取組、その他
⑪国立博物館(東京国立博物館、東京国立近代美術館等)の事業、大学(とくに芸術系学部学科を開設している大学及び地域振興プログラムを展開する大学等)の事業、等
<ご参考>
⑫島根県立古代出雲歴史博物館 企画・展示の参考にするため
⑬森美術館のラーニングプログラムに注目しています。
⇒⇒企業立で都心にありながら、参加者や地域との連携を大切にした、きめ細かなプログラムを実施されていると思います。
⇒⇒住民参画型現代美術プロジェクト。小さな自治体で住民の中に美術館が根付くための息の長い活動を精力的に行っておられると思います。
⑳無言館
Q21.ご意見等
博物館がさらに高みをめざすためには、人材育成が必要であるが、近年の博物館に対する幅広いニーズ、それに対応しながらの業務は過酷であり、加えて非正規雇用職員も多い。
人材育成はもちろん、博物館のベースとなる調査研究・資料保存等すら満足に行えていない現状がある。
意識の持ち方により自己採点は変わると思うので、それを前提としてなお傾向が見出せそうなら知りたいと思う。引き続き突っ込んだ調査研究を期待します。
美術館活動の基本は設立時に確立さたものが多く、新たな活動に乗り出すためには人員や予算の増が欠かせないが、状況が大きく変わることもないため、既存の事業を継続することに汲々としていて、なかなか活動を変えることが難しい現状もある。
設問が美術館向けに偏っていて、自然史博物館の実情にそぐわない。
内容が美術館よりだったので、歴史系博物館としては解答がこれで良いのか少し違和感がありました。とはいえ、こういうアンケートに協力できて幸いです。今後ともよろしくお願いします。
質問の意図が不明確なもの、また、組織としての回答が困難な設問については未回答といたしました。ご了承ください。
今後の活動については、自由記述もあった方がいいと思いました。また、既にされているかもしれませんが質問が人文系の博物館に対するものに片寄っているので自然科学系博物館への現地調査をされるのが良いかと思いました。
多くのご意見、ご指摘を頂き、誠にありがとうございました。
多数ご指摘頂きましたように、設問が美術館に寄りあったことは、大きな反省点です。
今後の研究に活かして参ります。
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