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聴覚とミュージアム

視覚情報を中心とした、博物館や美術館。

であれば、聞こえなくても情報を得るには、何ら問題ないはず。

と考えられてるようです。

はたして、本当にそうでしょうか。

Photo by Mark Paton on Unsplash

聴覚とミュージアム

音の聞こえ方は、人によって違いがあります。生まれながらに聞こえにくい方、病気やケガで聴こえにくくなった方、そして誰でも程度の違いはあれ年齢とともに聞こえにくくなります。

 聴覚に障害があり、魚類学者、博物館学学者でもある鈴木克美は、合理的配慮の調査のために、彫刻美術館を訪れた時の感想を以下のように述べています。

聴覚障害者に対しては、博物館サイドのこうした研究も、具体的な対応も、援助もほとんどないことが、改めてわかった。何をしたらいいのかわからないというのが一つ。それにもまして、障害者側からの利用要求がまったくないと。ある程度予想していたこととはいえ、ショックだった

(特定非営利活動法人みみより会 機関誌『みみより』2000年No.12 より抜粋 )

鈴木は、いったい何を憂いていたのでしょうか。

物思いの女性

Photo by Jonathan Cosens Photography on Unsplash

文字情報

「聴覚障害者は、耳が聞こえなくても、眼で見るのに不自由はないし、行動にも困らないのだろう。とすれば、『観察の場』である博物館で、なぜ、障害者としての対応が必要なのかという声もあった。言語習得以前に聴覚を失ったろうあ者に、博物館の解説を読むのが困難という事情も、ほとんど知らない。」

(特定非営利活動法人みみより会 機関誌『みみより』2000年No.12 より抜粋 )

前出の鈴木はこう述べています。

 聞こえにくくても、文章なら問題なく読める、と思われることが多いようです。

しかし、生まれながらにして聞こえにくいある方と、病気やケガで聞こえにくくなった中途失聴の方、また発話(声を出して話す)を使うか使わないか、によって文章の受け入れ方には大きな違いがあります。

 発話の訓練をされた方や、中途失聴の方の多くは、長い文章でも難なく使いこなされます。

しかし、生まれた時から聞こえにくい方や、幼い時に失聴された方、発話を使わない方の中には、長い文章が苦手な方も少なくありません。その場合、書くことも得意とされないこともあります。


 都内のある美術館で開催された大規模企画展で、音声ガイドの台本が¥500で貸し出しされました。しかし、聞こえにくい方にとって、話し言葉をそのまま活字にした文章は非常に難解なものでした。

できれば、ガイドブックやキャプション、ゾーンキャプションなども、平易な日本語と短い文章を心がけることで、聞こえにくい方だけでなく、外国語を母国語とする人や高齢者にも理解が深まると思います。

(参考:公益財団法人 横浜国際交流協会 「やさしい日本語」ウェブサイト

コミュニケーション

 聞こえない方や難聴の方とコミュニケーションするには、手話はひとつの方法です。

しかし他にも、空中や手のひらに文字を書く「空書き」、筆談ボード、コミュニケーションボード、唇の形で言葉を読む、読唇ができるろう者さんも多くいらっしゃいます。このように手話以外でも、コミュニケーションをとることは十分に可能です。


声を使わないコミュニケーションでは、顔の表情、表現の勢い、などにも重要な意味が含まれています。

そのため、マスクが一般的になった昨今では、ろう者さんはコミュニケーションに大変苦労されています。

マスク越しのコミュニケーションは、いつもより2倍増しの笑顔でお願いします!

Photo by Photography acworks on PHOTO AC

ミュージアム体験

見るだけでもなく、触るだけでもなく、聞くだけでもなく、ミュージアムはあらゆる身体の感覚によって体験することができます。

それは、聞こえにくい方も同じです。

手話は、挨拶や名前の表現程度であれば、動画サイトなどを参考にして、比較的容易に覚えることができます。

 下手でも、間違っていても、多くのろう者さんが「手話ができる人に会うと嬉しい」と言ってくれます。それは、コミュニケーションできることよりの嬉しさではなく、表現者がろう文化を理解しようとしていることの現れだからです。

 あるいは、手話でなくとも、筆談や空書きでもコミュニケーションは十分に可能です。

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対話をあきらめない世界

音が聞こえないと、社会生活の中で、不便を感じることがあります。

電車の遅延放送、後ろから迫る車の音、挨拶を無視されたと 勘違いされる、などなど。

しかし、それは本人のせいでしょうか。

音以外にも伝える方法はあるのに。

聞こえないこと自体は、悪いことでも、気の毒なことでもありません。

走るのが苦手だったり、高いところが苦手だったり、背が高かったり、低かったり。

そう、個人の特徴の一つにすぎません。

聞こえないことは、特別なことではないのに、社会生活に不便がある。

そのことこそが、悪いことであり、問題だと言えるのではないでしょうか。

俳優・演出家・ダンサーである大橋ひろえさんは、初めてアメリカ渡ったときの感動を語っています。

J-WAVE SELECTION SHIMIZU KENSETSU DIALOGUE IN SILENCE

2018年7月29日 J-WAVE放送と同時にライブ配信


《 補 足 》

・かつては聞こえない方を「ろうあ者」(聞こえず話せない人)と呼んでいましたが、聞こえなくとも、手話やその他のコミュニケーション方法で話すことはできるので「ろう者」と呼びます。

・補聴器の近くでは、決して大きな声で話したり、大きな音を出さないようご注意ください。

 補聴器はその方の特性に合わせて、増幅する周波数が細かく調整されています。

 伝わりにくい時は、大きな声をだすよりも、口や表情をいつもより大きく表現してみましょう。

・もし、館内で補聴器の落とし物があった場合、補聴器を扱う眼鏡店などにご連絡をお願いします。

 補聴器は医療機器として登録されていますので、持ち主を探すことができます。

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