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別荘跡にみる武蔵野の変容

2023 10/01
文化・伝統
2023年10月1日
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#国分寺崖線 #武蔵野台地 #ロマン主義 #別荘

目次

1.はじめに

 東京都西部には、国分寺市から小金井市、世田谷区にかけて、多摩川の河岸段丘である国分寺崖線が走っている。国分寺崖線の大部分は宅地として開発されたが、小金井市では、その一部が保存緑地として保護されている。この保存緑地の中に、階段や擁壁、門扉などの住居の跡を確認することができる。笠原は、明治期の地図や、登記簿などを調査し、この住居跡の多くが別荘であったことを明らかにしている[註1]。
小金井市は、新宿から電車で約20分と、都内でも人気のベットタウンである。別荘と言えば、軽井沢や葉山などが連想され、都心に近いこの地が別荘に向いているとは思われない。しかも、はけの急峻な崖地は、土地の造成や基礎工事、建材の搬入、また土砂崩れなどの危険性を考慮すれば、建築の用地としては適していない。
 本稿では、小金井市の急峻な崖地に住居が建設された経緯を考察することで、武蔵野の文化的変遷について述べる。

2.武蔵野観の変遷

 奈良期から鎌倉期にかけての「武蔵野」は、『万葉集』や、『伊勢物語』、『更級日記』など、文学の題材として取り上げられることで知名度が増す[註2]。この頃の文学に登場する武蔵野は、蘆や萩が生い茂る原野として紹介されている。
 江戸期になり、都の中心が江戸に移動すると、江戸幕府は多摩川の水を江戸に引き入れる玉川上水を建設する[註3]。小金井付近では、玉川上水の堤を保護する為に植林された桜が、小金井桜として有名になり、景勝地として江戸の市民に親しまれる[註4]。
 明治期に鉄道網が整備されはじめると、東京の富裕層の間では、避暑や避寒を目的として、湘南や房総、箱根、軽井沢、などの遠隔地に別荘を持つことがステイタスとなる。
しかし、明治の末期になると、都心とさほど気候の差がない、東京近郊に別荘が建設されはじめる。
十代田[註5]は、その理由を以下の3点から説明している。
 まず、明治維新によって近代西洋医学とともに、自然豊かな場所に移り住み、環境を変えることで、疾病の治療や健康の増進を図る大気療法が輸入される。これにより、都市部よりも郊外の方が健康に良いという概念が富裕層に浸透した。
 次に、私鉄の登場による沿線の開発を挙げている。移動や流通の利便性を目的とした国有の鉄道網ではなく、私鉄各社は沿線の土地開発を行い、利用客の増大と、土地の売却益を狙った。鉄道各社は、開発した土地を単なる住宅地としてではなく、別荘地としてのプレミアをつけて販売した。現在のJR中央線は、明治22年に私鉄である甲武鉄道として開業している[註6]。
 3つめの理由として、国木田独歩の『武蔵野』、大岡昇平の『武蔵野夫人』など武蔵野を舞台とした小説による「武蔵野ブーム」を挙げている。国木田は、武蔵野の自然を日本の伝統的な花鳥風月を愛でる視点とは異なり、湖水や森など身近な自然の調和を美的価値として作品に描き出した。

十代田は、国木田がワーズワース、ターナー、コンスタブルらによって形成されたロマン主義に影響を受けた可能性にも言及している。
 古代から江戸期にかけて原野であった「武蔵野」は、西洋文化の影響を強く受けた明治維新、そして鉄道をはじめとした近代の交通網の整備と、自然観の変化によって、自然あふれる都市近郊の新天地として再発見されることとなる。

3.まとめ

 朽ちかけた門扉や石垣に対する関心を地図にプロットし、先行研究と合わせて読み解くことで、武蔵野都市化の歴史を遡ることができた。別荘地は、武蔵野台地の北の端に位置し、南には丹沢山系、晴れた日には富士山を臨むこともできる。更に、湧水によって豊かな自然が育まれている。武蔵野の別荘地は、鉄道の整備と宅地の開発、そして健康志向の高まり、ロマン主義に影響された自然観によって、生まれたと考えられる。
 つまり、明治期以降の武蔵野の都市化は、単に人口増加や交通網の発達、宅地開発など、経済的な発展だけで進行したものではなく、その背景には文化的な価値観の変化が大きく影響しているといえる。


<参考文献等>
[註1]論文:東京工業大学大学院 助教 笠原知子 研究助成論文
    『明治・大正期の別荘敷地選定にみる国分寺崖線の風景分化論的研究』
     2010年 公益財団法人 とうきゅう環境浄化財団 発行 (Vol.38-No,285)
[註2]論文:山根ますみ・篠原 修・堀 繁/共著 
   『武蔵野のイメージとその変化要因についての考察』
    造園雑誌53(5)pp215-220 1990年
[註3]東京都水道局 「玉川上水の歴史」ウェブサイト2021年8月2日取得
    https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/kouhou/pr/tamagawa/rekishi.html
[註4]「名勝 小金井桜の会」ウェブサイト 2021年8月2日取得
    http://koganeizakura.com/4indexkoganeisakura.html
[註5]論文:十代田 朗・安島博幸・武井裕之/共著
    『戦前の武蔵野における別荘の立地とその成立背景に関する研究』
     造園雑誌55(5)pp.373-378 1992年
[註6]中村 建治/著 『中央線誕生-東京を一直線に貫く鉄道の謎-』東京交通新聞社 2016年

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芸術大学院でミュージアムの社会的包摂や芸術教育に関する研究をしていました。
プロフィール写真は子供の絵、ではなく私が描いたものです!
ご覧のようにアート作品を生み出すことはできませんが、アートと社会の間の通訳のような存在になれることを目指しています。
・学芸員
・国際博物館会議(ICOM)会員
・美術による学び学会(研究会)

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